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桜の花の下で生きたい(房総人)

政治家稼業をやっていると「政治家は神経が図太い人しかなれないんでしょう。」とか「心臓に毛が生えている人達」とか言われることが多い。テレビドラマや小説の影響かもしれない。しかし自分の周りの先輩、同僚を思い浮かべると、むしろ繊細な人がほとんどのような気がする。政治家という職業は「地雷の埋まったコースを制限時間内に駆け抜ける」と言ったものだから、「地雷を踏んだらサヨナラ」だし、躊躇してタイムアップになっても爆発する。そんな仕事を続けていれば、おのずと神経は過敏になる。ではなぜ「度胸が良く」・「腹が据わっている」ように見えるのだろう。その理由は「政治家はあらゆる職業の中で最も通夜や葬式に出る機会が多い」からではないかと密かに考えている。  政治活動は多くの方々のお世話になるので、自然とご縁が広くなる。おのずと通夜や葬式に出る回数は増える。ご霊前で戴いたご恩にお礼を申し上げ、お別れをする大切な時間だ。厳冬期や季節の変わり目の頃は、ほぼ毎日と言っていい。おそらく一般の僧侶の方々よりも回数は多いのではないか。形式も仏式、神式、キリスト教式、人前式と様々だ。長生きをされたのちの旅立ちもある、幼くして逝った命もある。それぞれに天寿であったと願いたい。人生の最後のイベントである葬儀は、主役がそこにいない。個人の人生の集約が客観的にある。参列者の中で「故人とこの方は親戚だったのか」とか「個人はこういう交友関係をお持ちだったか」など初めて知ることも多い。趣味やお好きだった事など、新たな一面も発見する。子供の頃の話、結婚のエピソード、子育てや仕事の苦労など個人の人生が再現される。このところ亡くなられた方々の多くは、戦前に生まれ、戦後の混乱を経験し、高度経済成長期を通して今日の日本をつくってこられた方々だ。「人の一生はあっという間に過ぎる」と先輩方の話をよく聞くが、そこには悲しみと喜びが織り成す日々がある。良い事ばかりだった人も、悪いことばかりだった人もいない。  そして死は誰にでも公平に訪れる。権力の中心にいた人も田畑を守り続けた人も職人として木を削り続けた人にも。死は突然訪れてその人の存在を無に戻していく。家族の悲しみは、やがて思い出となり、世間は静かに忘れ去っていく。「切ないものだな」、そう以前は思ったが、通夜、葬儀に何度も何度も会葬するうちに、「それで良いんだろう」と考えるようになった。人はそうやって世代をつないできたし、そうでなければ生きていけないのだから。 「政治家の神経は図太い」と言う話から随分迂遠な話となってしまったが、多くの人の人生の最後の式に立ち会い、その人の人生を見つめ直す作業の繰り返しが政治家自身の人生観や日々の判断、身の処し方に与えている影響は大きいと思う。「人事を尽くして天命を待つ」、「天命に従う」という決意や「人生は糾える縄の如し」、「成るように成る」といった一見すると楽観的に見える態度も最後は「死という究極の公平」に導かれると言う思いからくるのではないか。決して虚無主義ではなくむしろ「諦観に基づく積極性」とも言うべきものなのかなと思う。だからこそ「自分の信じる道を貫いていこう」とか「人の評判に媚びてもしょうがない」と考えるのだ。そして何よりも「ひとりひとりが一度しかない人生を生き抜いている」ことを政治は大切にしなければならないと思う。 さて、自分の旅立ちはどうありたいだろう。闘争の中の憤死であろうか、静かな心境で穏やかに向かえることが出来るのか。それさえも人は自分で選ぶことは出来ないのだろう。 願わくば 花の下にて 春死なむ  その如月の望月のころ              西行



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